難解な休眠預金規定

休眠預金活用法が2018年から施行されているのを受けて、銀行は預金規定を改定し休眠預金の条項を入れている。口座管理料を取っている銀行では休眠口座規定を変えている。某メガバンクのページでは法律文そのままで、最初に読んだ時に、チンプンカンプンに思えた。その後、地方銀行や他のメガバンクの同種規定、金融庁のページ、法律自体、施行規則条文などを調べていくうちに、この法律の落とし穴、危うさに気付き、最初のメガバンクのホームページが、こう書かざるを得ない、ことに気付いた。預金者との間に今後起こりうる事態を考慮すれば、正確に、安全を考えて、書くしかなく、すると法律文の表現にならざるを得ない、ことが理解できた。

金融庁の発表資料のリンクがでている。

休眠預金等活用法

預金者むけ資料が

「休眠預金等活用法Q&A(預貯金者の方などへ)」(PDF:408KB)

このQ/AのQ1:「休眠預金等」はどんな預金ですか?

A:「休眠預金等」とは10年以上入出金等のお取引(異動)がない預金等をいいます

2009年1月1日以降に異動があった預金等が原則なります。 

この文を単純に読んで1995年に作成した自動継続定期預金は、この法律の対象外と安心してはいけない。異動とは入出金だけをいうのではない。あと「原則」、「等」というのがくせもので、自分の知らない間に対象になることもあるから、細かい規定を読まなければならないことがわかる。預金を作成した日時でないことが、某銀行の案内では明確に書かれている。

「休眠預金等活用法」により、2009年1月1日以降のお取引(最終異動日等)から10年以上お取引のない預金は、休眠預金として預金保険機構に移管され、民間公益活動の促進に活用されます。

Q2で証券口座はこの法律の対象外であることがわかる。

Q3ほとんどすべての銀行口座が対象で、信託口座も含まれることがわかる。

Q4で、金額に無関係で法律の対象になることがわかる。従来は残高10万円以上は休眠口座にならならないと、うろ覚えていた。

Q5 異動の定義

銀行の利子の支払い以外の入出金

だけが明確に規定されている。(小切手、手形など事業家・商店以外は通常扱わない)。それ以外に①通帳の記帳など②残高照会③名前・住所などの変更手続きなど④ローン、クレジット返済口座などの手続き⑤銀行からの預金・銀行などの通知を受け取る⑥総合口座規定

でこれらは各行が、自行の異動事項にするかどうかを判断して、金融庁に申請して認可を受けて初めて異動事項になる

銀行は「認可」を受けると、システム開発をして「異動日」を口座毎に記録できるようにする義務を負う。このため銀行毎に「認可」がばらばらにならざるを得ないと推測される。例えば銀行名が合併などで変わり、支店の統廃合があった時、預金者に通知が届く。これを「異動」にするかどうかは、銀行毎に異なることを意味する。残高照会、記帳ですら、各行毎に違う可能性がある。総合口座も銀行ごとに商品特性が異なり、一筋縄にいかない。各銀行ホームページから異動認可の表を見ていると、多くの銀行では総合口座につき、普通預金部分に入出金(異動)があれば、定期部分も異動があったと見なすと書いてあり、某メガバンクでは定期預金の利息が普通預金に入金されれば入出金があったと見なすとさえ書いてある。しかし別のメガバンクでは、普通預金と定期預金の異動日の一体性が明記されていない。その銀行では総合口座につき以下のように書かれている。

「複数の預金を組み合わせた商品(総合口座等)に係る預金の最終異動日等

総合口座取引等における預金のいずれかに将来における債権の行使が期待される事由が生じた場合には、他の預金にも当該事由が生じたものとして取り扱います。」

これが正確に理解できますか? 私の理解では、総合口座普通預金部分と貯蓄性預金部分のうち、貯蓄性部分の規定が将来における債権の行使が期待される事由。貯蓄性部分の異動日は別の条文で規定され、放置された預金では、貸し越しが生じるか、記帳がされない限り異動にならない。じっくり「休眠預金規定」を読み、ネット検索し、他行の「休眠預金規定」を読み比べて、ここに要注意点がありそうと気付く。

自分の預金がとられたくなければ、取引銀行の「異動」定義を読み休眠預金にされないように対処する必要がある。特に定期預金では入出金が簡単にできないから「異動」要件を満たすには、何をしなければいけないか、知っておくことが大切である。通帳の記帳は多くの銀行で「異動」にしている。総合口座に入れ、普通預金部分に入出金し、さらに記帳もすれば安全。残高照会はあぶない。その理由も想像できる。

他行のATMで残高照会をした時、自行のATMで残高照会した時、通帳に記帳して残高照会をした時、それぞれ異なる可能性もある。銀行のコンピュータシステムで口座記録に残高照会の記録が残るかどうかは疑問である。記録が残らないものを銀行は「異動」事由にできないだろう。

Q6定期預金、金銭信託も10年たてば休眠預金等になりますか?

A満期から10年、異動がないと休眠預金になる。自動継続扱いの預金の満期日は最初の満期日とする。

ここが一番注意する点だ。継続預金の満期日はかって裁判でも争われ、最高裁判断がでている。その時の判例と今回の法律の規定が異なっている。

銀行預金も商法の規定では5年(信金などは10年)で消滅時効にかかるとされている。しかし日本の銀行はこれまで、この規定をたてに、預金を没収したことはなかった。倒産した信金を合併した銀行が銀行帳簿の不備を理由に15年放置された自動継続定期預金の支払いを拒否した事件で最高裁まで争われた。

最高裁判所第三小法廷平成19年04月24日判決 平成17(受)844 預金払戻請求事件

裁判所は自動継続定期の商法上の時効開始計算日は最後の満期日とした。

例えば、2008年5月10日に作成の自動継続1年定期預金の時効計算上の満期日は最高裁判例では2018年、2019年、。。になる。(時効には決してならない)それがこの法律では2009年5月10日が起点になり10年後2019年5月10日には休眠預金(候補)になる。つまり通知が郵送され、それが転居などで届かないで銀行に戻ると、銀行のWebで公告され、そののち「休眠預金」として没収され、銀行からお金は預金保険機構に渡され、NPO団体等に配られ「活用」されてしまう。

 

3.休眠預金になってしまった後の引き出し手続き

休眠預金になる前の預金通帳・キャシュカード、本人確認書類等をもち、その銀行で払い戻しを受けられる。必要な手続きはその銀行に問い合わせること

銀行毎に手続きは異なりそうで、自分で確認する必要がある。金融庁の意向で銀行が手続きを変えることも想定される。例えば本人確認を厳密化して、本人が窓口にこないとダメ、とか。今現在で確実なのは、本人が窓口に出向き、本人確認書類を提示すること、だけと言えよう。 

注意すべきは、老人などがタンスにしまっている預金通帳だろう。これまで例えば残高300万円、残高2000万円などの自動継続預金を本人の存命中に銀行が休眠口座にしてしまう、といことは想像できなかった。この常識にとらわれた老人の高額自動継続預金が休眠預金(候補)になりやすいだろう。銀行合併で支店が減り、銀行窓口が大混雑していた頃に、住所が変わった人は、住所変更手続きを省いた可能性もある。一番危険なケースである。自分の権利(財産)は自分が行使して守らないと消えてしまう。このことを思い知らされる法律である。